婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 男が、ゆっくりとフードを外す。よく見れば高級そうなフード付きマントの胸もとには、王家の紋章の刻まれたブローチが光っていた。銀色の髪が、闇間でほのかに輝いている。

「スチュアート様……」

 それは、紛れもなくスチュアートだった。以前よりも頬がこけた気がするが、銀色の瞳を携えた双眸も、いるだけで押しつぶされそうな威圧感も、以前と変わっていない。

「スチュアートさま、ということは……この国の王子様!?」

 トーマスが、ひぃぃっと声をあげた。ここ最果ての地で生まれ育った彼は、この国の王子の風貌を知らなかったようだ。

「な、なぜ、スチュアート殿下が、このようなところに……」

 予想外の訪問者に、ララも困惑を隠せずにいる。

 アンジェリ―ナも、もう一生会うことはないだろうと思っていたスチュアートの訪問に、さすがに戸惑っていた。だが気持ちを持ち直して、厳かに礼をする。

「スチュアート様、ご無沙汰しております。お供の方はどちらにいらっしゃるのでしょう?」

「供はいない。私ひとりで来た」
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