婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 仮にもこの国の時期後継者である彼が、供も連れずにこんな場所に来るなどあり得ない。よほどの緊急事態か、危機的意識がなさすぎるか、頭がどうかしてしまったかのどれかに違いない。

(もしや、私の幽閉場所を移すとおっしゃるつもり……? エリーゼ部屋まで作ったのに、絶対に出て行かないんだから……!)

 アンジェリ―ナは決意を固めると、スチュアートを睨み据えた。

「国王陛下や、エリーゼ様には、ここに来ることを告げているのですか?」

「いいや、誰にも告げていない。私の独断で来た」

 答えると、スチュアートはずいっとアンジェリ―ナに迫った。

「アンジェリ―ナ」

「何でございましょう?」

「思ったよりもずっと元気そうでよかった。肌艶も、以前よりもずっとよいくらいだ」

 伸びてきたスチュアートの手が、アンジェリ―ナの肩下に垂れたローズレッドの巻き毛に触れそうになる。だが、アンジェリ―ナは直前で見事なスウェーバックでそれを交わした。

 ふたりの間に、戦慄が走る。スチュアートの瞳が鋭くなったのを、アンジェリ―ナは見逃さなかった。

「アンジェリ―ナ。単刀直入に言おう」
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