婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 行き場をなくしたスチュアートの手が、マントの下にある剣の鞘付近をかすめる。

(もしや斬られる? 幽閉しただけでは怒りが収まらず、私を亡きものにするつもりなの?)

 アンジェリ―ナが身の危険を察知したそのとき、スチュアートが思いがけないことを口にする。

「城に戻って欲しい。私には君の力が必要だ」

 世界が反転したかのような事態に、アンジェリ―ナは唖然とした。

 ララも、口をあんぐりと開けて呆気に取られている。

「エリーゼは役に立たない。あんな村娘にいっときでも心を奪われた私が愚かだった。隣には自分にふさわしい教養ある妻を侍らすべきだと、ようやく気づいたのだ」

 何があったのか知らないが、随分勝手な言い分である。

 それに、推しのエリーゼを“あんな村娘”呼ばわりされたのにも、アンジェリ―ナは憤りを覚えていた。

「君に関する悪い噂が全て虚言であることは知っている。それに君のことを調べさせたら、男と遊んでいる形跡など全くなかった。そもそも王宮に上がってからというもの、君は自室にいるとき以外は常に人目のある場所にいたのに、男と遊べるわけがない」

 ――バレていた。
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