婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 ようやく手に入れたネクラ人生、最大のピンチである。

 とにかく。

「――スチュアート様がどうお思いになろうと構いませんが、とにかく私はあなたのお側にいるべき人間ではございません」

「それは私が決めることだ。それに、もう決めたことだ。いいから、つべこべ言わずに早くこちらに来い」

 アンジェリ―ナが何を言おうがどうでもいいとばかりに、スチュアートが強引に手を伸ばす。そして、ガシッと彼女の二の腕を捕らえた。およそ女性に触れているとは思えない力強さで、きりきりと腕を締め付ける。

「いた……っ」

「――アンジェリ―ナ様!」

 すると、矢のごとく食堂に舞い込んできた黒い影が、アンジェリ―ナとスチュアートの間に立ちふさがった。スチュアートの手が、自ずとアンジェリ―ナの腕から外れる。

 アンジェリ―ナの目の前には、ビクターの広い背中があった。彼の身体に視界を完全に覆われ、アンジェリ―ナからスチュアートは完全に見えなくなる。ビクターの気配を感じながら、アンジェリ―ナはホッと息を吐いた。

「ビクター。お前も、久しぶりだな」

 スチュアートの苦々しい声がした。
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