婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

「スチュアート殿下、アンジェリ―ナ様が痛がっておられます。いくらあなたでも、これは許される行為ではございません」

　いつもより声音を下げて、ビクターが言う。スチュアートを威嚇するような声だった。

　それからビクターは、アンジェリ―ナの無事を確認するようにちらりと背後を見る。思った以上に至近距離で目が合って、たちまち彼は火が着いたように顔を赤らめた。

「ハハハッ！」

　さもおかしい、とでも言うかのように、スチュアートが大きな笑い声を響かせた。

「お前が言っていたアンジェリ―ナとの関係も、事実無根だということは調べがついているぞ。そもそも堅物で女っ気のないお前が、アンジェリ―ナと男女の仲であったなどあり得ない話だ。もしもお前たちがそのような関係ならば、目が合っただけで顔を赤らめたりはしないだろう。なあ、ビクター」

　スチュアートの指摘を受け、ビクターは完全に言葉を失っている。本来は真っすぐな性格だけに、嘘を暴かれシラを切ることはできないのだろう。

（ああっ、もうっ！　ここでビクター様が一声言ってくれれば、なぜか暴走しているスチュアート様もあきらめて帰ってくださるかもしれないのに！）