婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 苛立ちを隠さない声。スチュアートが、怒りに任せて身を翻す気配がした。

「アンジェリ―ナ。私の情けを受けておくべきだったと、今度こそ後悔するがいい。必ず、今以上の地獄を見せてやる」

 最後にそう言い捨てると、スチュアートは威嚇するような足音を響かせ、部屋を出て行った。

「ビクター様……。そろそろ、離してはくれませんか?」

 遠く馬の嘶きが聞こえたところで、アンジェリ―ナはようやく声を出す。スチュアートは、もう敷地から去って行った。それなのに、いまだビクターがアンジェリ―ナを強く抱きしめたままだったからだ。

 ハッとしたように、ビクターが腕を離す。至近距離で目が合えば、彼は今更のように顔を赤くした。

 ゆでだこ、トマト……どんな表現も到底及ばないような、赤面具合だ。

「チッ、こんなことをするつもりでは……っ!」

 真っ赤になりつつ、ビクターはイラ立ったように呟いた。

 そしてもう一度アンジェリ―ナの顔に目を向けると、より一層顔を赤らめ、逃げるようにその場を離れる。混乱のあまり、久々のツン状態に陥っているのかもしれない。

(何はともあれ、スチュアート様を追い払うことができてよかったわ)
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