婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 トーマスを除いた男たちのいなくなった食堂で、アンジェリ―ナはほうっと息を吐く。

 ビクターが積極的に抱きしめてくれたおかげで、スチュアートはふたりが恋仲だと信じてくれたようだ。不意打ちのキスだけでは、説得力が欠けていたに違いない。

「きゃ~! すごいものを見ちゃいました!」

 思い出したかのように、ララが黄色い声を上げる。厨房の陰に身を隠していたトーマスが、久々に息をしたかのようにゲホゲホと咳き込みだした。

 ララの興奮は止まらない。

「アンジェリ―ナ様とビクター様って、やっぱりそうだったのですね! いつの間に!? 見ているこっちが照れちゃったじゃないですか!」

 公衆の面前でビクターとキスをし、抱きしめ合ってしまったことに、アンジェリ―ナは今更のように狼狽する。スチュアートを追い払うために仕方がなかったとはいえ、これは相当恥ずかしい行為だ。

「でもいいんですか、アンジェリ―ナ様? スチュアート様、『地獄を見せてやる』なんて言ってましたけど」

(そうだった!)

 アンジェリ―ナは我に返る。スチュアートの考える地獄が何なのか想像もつかないが、この塔を離れることだけは何としても避けたい。
< 148 / 206 >

この作品をシェア

pagetop