婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 スチュアートとひと悶着があって数日後。

 アンジェリーナは秘密の『推し』部屋にこもり、エリーゼの新作スチルを仕上げていた。

 イーゼルに立てかけたキャンバスの前に腰かけ、丁寧に筆を入れていく。

(はあ~。幸せ)

 やはり、ひとり暗闇で黙々と己の趣味に興じているときが、アンジェリ―ナは最も幸福だった。

 しかも、今描いているのは、実際の『王子と乙女のセレナーデ』には存在しない架空のスチルだ。ビクターバージョンに続く、第二弾である。

(たまにはこういうお遊びみたいなのがあるのも、楽しいのよね)

 むふふっと、仕上がったばかりの絵を眺める。

「どこに飾ろうかしら」

 ここがいいかしら?いやいやここかしら?とキャンバスを手に悩んでいると、ふと唯一ある小窓から、外の様子が視界に入った。

 敷地に通ずる門前で、トーマスが何者かと言い合っている。金塗りの豪華な馬車を率いた一行だった。スチュアートが来た際に警備を厳重にするよう言い渡してから、トーマスは敷地内や塔を歩き回らずに、ほぼ門前の警備に徹している。

(また訪問者!?)

 どうしてこうも、訪問者ばかりが続くのだろう。これでは幽閉生活を満喫できないではないか。

(トーマス、うまいことあしらうのよ!)

 アンジェリ―ナは窓枠に肘をつくと、トーマスを睨み据え念を送る。だが、馬車の窓から顔を出した人物の顔を見るなり、はたと真顔に戻った。

「エリーゼさま!?」
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