婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 日に何度も彼女の姿を妄想しているので、見間違えるはずがない。

 今日は肩までの薄茶色の髪をハーフアップにし、檸檬色のドレスを着ているようだ。鎖骨周りのフリルが愛らしい。エリーゼは窓越しに、トーマスに対して何やら文句を言っているようだった。

 おそらく、“悪魔の塔”の中に入りたいのに、トーマスが許してくれないのだろう。

「トーマス! わざわざ訪問してくださったのに中に通さないなど、なんて気が利かないの!」

 自分がトーマスに命令したことをすっかり棚に上げ、憤りそのままに、アンジェリ―ナは部屋を飛び出した。そして塔を離れ、門前へと駆けていく。

 アンジェリ―ナがものすごい勢いで近づけば、門前にて言い争いをしている全員の視線がこちらに向けられた。中でもエリーゼは、とりわけ凄むような表情を見せている。

「アンジェリ―ナ様。そちらからいらしてくれたのであれば、助かります。あなたにお話しがあるのですが、この者がここを通してはくれないのです」

 エリーゼは扇子で自らを仰ぎながら、挑発的な声を出した。

 アンジェリ―ナはピタリを足を止めると、エリーゼを見つめた。
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