婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 そして、ついにスチュアートは、アンジェリ―ナが待ち望んだセリフを大声で放ったのだった。

「許せない! お前など、領地には返してやらん! 一生を“悪魔の塔”に幽閉されて過ごすんだ!」

(きた!)

 心の中でガッツポーズをしたあとで、アンジェリ―ナは速やかに頭を垂れる。

「かしこまりました。今すぐ、そのようにいたします」

 そしてとびきりの笑顔をスチュア―トに見せると、エリーゼとギャラリーが呆然と見守る中、颯爽とドレスを翻して宴の間を出て行ったのである。


 アンジェリ―ナの前世は、決して華々しいものではなかった。
 
 朝は早くから夜は遅く、はたまた土日や祭日まで、常に働き通しだった。
 
 絵に描いたような社畜人生。通勤ラッシュの電車内、怒られてばかりの職場、終わらない書類、帰宅ラッシュの車内、そのルーティンの繰り返しだ。
 
 今でこそ派手な外見の悪役令嬢だが、前世のアンジェリ―ナは地味で冴えなかった。

 おまけに、ひどくネクラな性格だった。人と接するのが苦手で、できるならば一日中家にこもっていたかった。

 買い物すら億劫なのに、他人とのコミュニケーションから逃れられない会社勤めの日々は、地獄に等しかった。友達はもちろんいない、恋人がいたことも一度もない、結婚なんて考えただけで怖気がたつ。

 それでも、社交的になろうと努力を重ねたことはある。セミナーを聞きにいったり、コミュニケーション講座を受けに行ったり、思い切って合コンに参加したりした。

 だが、どれも上手くいかないどころか、時には心に深い傷を残しただけに終わった。

 給料がまずまずだったのは、不幸中の幸いだった。とはいえお金を使う時間もなく、貯金だけが日増しに膨らんでいく状態だった。

 そのうち前世のアンジェリ―ナは、ある決意を胸に秘めるようになる。

 無理に、社交的にならなくてもいい。コミュニケーションが苦手で何が悪い?

 一度きりの人生、やりたいことをやってやる。

 お金をたっぷり溜め込み、早期リタイヤして、誰にも会うことなく家にひきこもってやる。

 そして、やりたくて仕方がなかった数々のネクラ趣味を、心ゆくまでやりつくすのだ。
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