婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 秘密のネクラ人生計画は、いつしか前世のアンジェリ―ナの生きる支えになっていた。
 
 リタイヤしたらすぐに趣味生活を開始できるよう、インターネットを駆使したり本を読み漁ったりして、下調べを入念にした。夜と休みの日は、リサーチに費やしたといっても過言ではない。

 十年、二十年と過ぎていく。

 四十半ばで、ようやく貯蓄は目標金額に達した。一人で余生を行き、ネクラ趣味を全開させるには充分な額だ。

 忘れもしない、年の瀬のことだった。
 
 会社に辞表を提出した前世のアンジェリ―ナは、その帰り道、柄にもなくスキップしながら長い横断歩道を渡っていた。

 長かった社畜人生から解き放たれ、背中に羽が生えたかのように身軽だった。

 明日からのひきこもり生活を想像しただけで、天にも昇る心地だ。

「ネクラ生活、万歳!」

 うかれるあまり、人生で初めて大声を出す。

 その時だった。

 耳をつんざくようなブレーキ音とともに、光で視界が真っ白になる。

 音のした方を見れば、大型のトラックが目と鼻の先まで迫っていた。

 ――それを最後に、前世の記憶は途切れている。
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