婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 二階から最上階である六階までは、各二部屋ずつあった。つまり部屋数は、ちょうど十あることになる。アンジェリ―ナとララがふたりで住まうには、充分すぎるほどだ。

 どの部屋も、簡易的なベッドと小窓があるだけの、まるで牢獄のような寒々しいインテリアだった。ちなみにトーマスはこの塔の中ではなく、庭の片隅にある監視小屋に住んでいるらしい。

「トーマス、これで部屋は全部?」

 ひと通り部屋を見終えたあとで、トーマスに聞く。

「いいえ。あと、地下にもありますだ。もっとも、家具もなーんもない、ただ暗いだけの場所ですが」

「そちらにも案内して」

「かしこまりましただ」

 ランプを手に、トーマスが先に立って階段を降り始めた。

 トーマスの言う通り、階下には、ひたすらだだっ広い空間が広がっていた。地下部分にあたるので小窓がなく、どの部屋よりも暗い。

「あ、そうだったべ」

 そこでトーマスが、思い出したようにランプを部屋の片隅にかざした。そこには、かなり大型の四角いキャリーバッグが、幾重にも高く積み重ねられている。
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