婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
アンジェリ―ナは、不当な理由で婚約破棄され、おかしくなってしまったのかもしれない。
「はあ~。どうしたらいいのかしら」
「ララさん、どうかされましただか?」
食堂のテーブルに肘をつきため息をつけば、天井の隅に張られた蜘蛛の巣を掃っていたトーマスが、声をかけてきた。
「アンジェリ―ナ様のことです。明らかにおかしいと思いませんか?」
「おかしいですね。昨日も地下から、赤子をあやすような声が聞こえましただよ。『まあ、かわいい! すくすく育つのよ~』って」
「何それ! めちゃくちゃ怖いんですけど」
そこでララは、よからぬことに気づいてしまった。アンジェリ―ナがときどき桶でうんせうんせと大量の水を運んでいるのは――。
「もしかして、産湯のつもり……?」
怖い、怖すぎる。妄想の中で子供まで生んでしまうとは、やはり王子との婚約破棄が相当こたえているのだろう。
幼い頃から誰よりも近くでアンジェリ―ナを見守ってきたララは、知っていた。
アンジェリ―ナは、人一倍頑張り屋だ。ランバート公爵家の令嬢に生まれた務めとして、ララが付き人となった年端もいかない頃から王子であるスチュアートとの婚約を決められ、次期王妃としてふさわしくあるよう、健気に頑張ってきた。
男の目を釘づけにする見た目はもちろんのこと、知識も、立ち振る舞いも、淑女として完璧だ。それらは全て、彼女の努力の賜物なのである。
にもかかわらず、あのポンコツ王子は、知識も品もない村娘に入れあげ、あっけなくアンジェリ―ナを捨ててしまった。アンジェリ―ナの受けたショックを考えると、彼女が正気を失ってしまったのも頷ける。
「心配です。このままだと、アンジェリ―ナ様も、かつてこの塔に幽閉された人々のように、精神を病んで亡くなってしまうかも……」
ララは青ざめ、口元を手で覆った。トーマスが、他人事のように肩をすくめる。
「まーた墓が増えるんですかねえ。埋めるの、けっこう大変なんですよ」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないくださいよ!」
「はあ~。どうしたらいいのかしら」
「ララさん、どうかされましただか?」
食堂のテーブルに肘をつきため息をつけば、天井の隅に張られた蜘蛛の巣を掃っていたトーマスが、声をかけてきた。
「アンジェリ―ナ様のことです。明らかにおかしいと思いませんか?」
「おかしいですね。昨日も地下から、赤子をあやすような声が聞こえましただよ。『まあ、かわいい! すくすく育つのよ~』って」
「何それ! めちゃくちゃ怖いんですけど」
そこでララは、よからぬことに気づいてしまった。アンジェリ―ナがときどき桶でうんせうんせと大量の水を運んでいるのは――。
「もしかして、産湯のつもり……?」
怖い、怖すぎる。妄想の中で子供まで生んでしまうとは、やはり王子との婚約破棄が相当こたえているのだろう。
幼い頃から誰よりも近くでアンジェリ―ナを見守ってきたララは、知っていた。
アンジェリ―ナは、人一倍頑張り屋だ。ランバート公爵家の令嬢に生まれた務めとして、ララが付き人となった年端もいかない頃から王子であるスチュアートとの婚約を決められ、次期王妃としてふさわしくあるよう、健気に頑張ってきた。
男の目を釘づけにする見た目はもちろんのこと、知識も、立ち振る舞いも、淑女として完璧だ。それらは全て、彼女の努力の賜物なのである。
にもかかわらず、あのポンコツ王子は、知識も品もない村娘に入れあげ、あっけなくアンジェリ―ナを捨ててしまった。アンジェリ―ナの受けたショックを考えると、彼女が正気を失ってしまったのも頷ける。
「心配です。このままだと、アンジェリ―ナ様も、かつてこの塔に幽閉された人々のように、精神を病んで亡くなってしまうかも……」
ララは青ざめ、口元を手で覆った。トーマスが、他人事のように肩をすくめる。
「まーた墓が増えるんですかねえ。埋めるの、けっこう大変なんですよ」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないくださいよ!」