婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「いやいや、もとはといえば、ララさんが言いだしたんだべ。でも、アンジェリ―ナ様はおかしくはなっているけど、見た感じは元気だから当分は大丈夫じゃないですかね? 今までの屍になり果てた人々は、すぐに寝たきりになったり、食事も喉を通らなくなったりしていましたから」

 トーマスの言い分は一理あった。

 アンジェリ―ナはおかしくなってはいるが、健康状態は良好そうだ。食事は毎回完食するし、肌艶もよい。むしろ、以前よりもずっと顔色がよいくらいだ。

 それに、ときどき上機嫌に鼻歌まで歌っている。幼い頃から次期王妃となるべく厳しくしつけられてきたアンジェリ―ナは、いつも淑女然とした上品な顔をしていて、あまり笑わない少女だった。

 だがここに来てからというも――いや、ちょうど一ヶ月ほど前から、よく表情の変化を見せるようになった気がする。

「そうですね。もう少し、様子を見てみましょうか」

 アンジェリ―ナは主ではあるが、妹のようにララは思っている。

 たとえ何が起ころうと、どこまでも彼女に寄り添おう。

 ララは、そう強く心の中で誓ったのだった。    

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