婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「そう。炒め物やナムルにしたら、すごくおいしいわ。ラーメンの具にもおすすめよ」

「……なむる? ……らあめん?」

 そうなのだ。この世界で、もやしは認知されていない。

 前世で、アンジェリ―ナはもやしに強い同情心を抱いていた。

 もやしはどこのスーパーに行っても、ありえないほどの低価格で売られている。そのせいか、どこかしら人間たちに軽んじられている気がした。

 手間いらずで、日の光いらずで、実は栄養価の高い素晴らしい野菜なのに。

 だから早期リタイヤ後は、もやしのスプラウト栽培をしようと心に決めていたのだ。

 軽んじられているもやしを、心ゆくまで育て、さまざまな調理法を駆使して大事に食べてあげたかった。

 もやしの育て方は、前世でリサーチ済だ。

 広口の瓶と、折り目の荒い布、それから乾燥させた大量の大豆は、一カ月前からコツコツと集めてきた秘密道具の中に忍ばせていた。

 育て方はいたって簡単。

 まずは瓶に大豆を入れ、水で浸す。そして布で蓋をし、日光の入らない場所に安置する。

 日の光の一切入らないこの地下室は、もやし栽培に最適だった。おかげで、もやしはみるみる細い茎を伸ばしていった。
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