婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

　栽培のポイントは、日に何度か種を水洗いすることだ。雑菌が湧くと全てが台無しになるので、清潔に保たなければならない。桶に張った水を地下に運び込んでいたのは、そのためである。

「ララ。もやしを収穫するから、手伝って」

「ええ～。これ、本当に食べられるんですか？」

　ブツブツ言いながらも、ララはアンジェリ―ナに倣って、瓶から布を外しもやしを取り出していく。

　収穫したもやしが桶いっぱいになると、アンジェリ―ナはそれを厨房に運んだ。その場にいたトーマスが、桶の中いっぱいに詰まった物体を見て顔をしかめる。

「それって、大豆の芽ですよね。いけんです。大豆の芽は、食べちゃあいけねえと昔ばあちゃんが言ってました」

「どうして食べちゃだめなの？」

「どうしてって、見れば分かるじゃないですか。ひょろひょろで、色も汚いし」

　この世界の人は、どうやら大豆が発芽することは知っているようだ。だが、冴えない見た目から、到底食べられる代物ではないと決めつけられているらしい。

（可哀そうに。どこの世界に行っても軽んじられているのね）

　アンジェリ―ナは、もやしに対する同情をますます深める。