婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「そんなことないわ、トーマス。もやしは、ちゃんと食べられるわよ」

「ええっ。そうだとしても、食べたくないです。どう考えても不味そうですだ」

「あらそうかしら? では、試してみてよ」

 俄然闘志のわいてきたアンジェリ―ナは、ドレスの袖をまくった。

(もやしよ。今こそ、実力の見せどころよ)

 アンジェリ―ナは、ざっと厨房を見渡した。

 罪人を幽閉するための塔にしては、この厨房は備品や材料が整い過ぎている。

 チョイスしたのは、塩、ごま、にんにく、そして昨晩のメニューだったスープの残りだ。鶏肉の入ったそのスープは、ララが作ってくれたものだった。しっかり鶏の出汁が効いていて、鶏ガラスープの代わりになるだろう。

 アンジェリ―ナは、まずは鍋に沸かした湯でもやしを茹で、しっかり水気を切った。それからチョイスした調味料と刻んだにんにくを、深皿で混ぜ合わせる。仕上げに、この日のために用意しておいた壺を取り出した。

「それ、何ですか?」

 アンジェリ―ナの様子を不思議そうに見ていたララが、横からひょっこり聞いてくる。

「ごま油よ。風味が豊かなの」
< 32 / 206 >

この作品をシェア

pagetop