婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 シャキ、シャキ、と彼がもやしを噛み砕く音がする。

「ん、これは……」

「トーマス、大丈夫?」

 ゆっくりともやしを咀嚼し続けるトーマスに、ララが心配そうに声をかけた。

 やがてゴクンとナムルを飲み下したトーマスは、目を見開いてアンジェリ―ナを凝視する。

「う、うまいですだ……。こんなにうまいものは、初めて食べましただ……」

「でしょ!?」

 もやしの魅力が伝わった!とアンジェリ―ナはテンションを高める。もやしだけではない。ごま油の織り成す深みのあるコクは、この世界にある調味料だけでは出せない。病みつきになっても、おかしくはないはずだ。

「ええっ、嘘でしょ?」

 驚いたララが、トーマス同様もやしを一本口に入れた。

 おそるおそる噛み砕いていたララだが、やがてピタリと動きを止めた。そして今度は数本のもやしをフォークにとり、シャキシャキと勢いよく食べていく。

「歯ごたえ抜群なうえに、なんかおいしい」

「そうなの、そうなの!」

 それから三人は、夢中になってナムルを食べた。大きめの器いっぱいに仕上がったナムルが、あっという間になくなってしまう。
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