婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 アンジェリ―ナは、すっかり肩を落としてしまう。これでは、ひとりバーベキューラー失格だ。火おこしなど、ひとりバーベキューラーにとっては、基本中の基本だろう。

(せっかく、もやしのベーコン巻きをこんな大量に作ったのに)

 大きなベーコンの塊のほとんどを費やしたのだ。もやしのベーコン巻きを入れた皿は、まだまだたくさんある。

 そのとき、ふと視線を感じた。

 アンジェリ―ナがしゃがみ込んでいる場所の向かい側、柵の向こうに、少年がひとり立ってじっとこちらを見ている。

 歳は、七、八歳といったところだろうか。乱れた赤毛、つぎはぎだらけの衣服、汚れた手足。おそらく、この界隈の子供だろう。

「へたくそ」

 少年が言った。

「炭の立て方が悪いんだ」

「……あなた、できるの?」

 すると少年は、無表情のまま頷いた。

「よく、かーちゃんにやらされてるから」

 アンジェリ―ナはしばらくの間考え込むと、やがてコンロを形成していた石を崩しにかかった。そして少年がいる柵の手前ギリギリに持ち運ぶと、再び組み立て、彼に向ってにっこりと微笑んでみせる。

「ちょっとだけ、手伝ってくれないかしら?」
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