婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 少年は無表情のままアンジェリ―ナとコンロを見比べていたが、やがてアンジェリ―ナが手にしている皿を指差した。

「それ、食わせてくれるならいいよ」

 貧しい少年に施しを、などという考えはアンジェリ―ナには毛頭ないが、背に腹は代えられない。

「いいわよ。だから、お願いしていい?」

 少年はこっくりと頷くと、柵の隙間から手を伸ばし、手際よく新聞紙を棒状にひねった。それから石炭を円筒型に並べ、さらに炭を重ねる。マッチで火を着けた新聞紙を真ん中に入れれば、しばらくして火種が石炭に着火した。

「すごい! 本当に着いた!」

 アンジェリ―ナは感嘆の声を上げると、さっそく金網にもやしのベーコン巻きを並べる。味付けは、塩コショウのみ。素材の旨味を最大限に引き出してくれる炭料理の場合は、味付けはシンプルで充分なのだ。もくもくと立ち昇る煙が、おしそうな匂いを辺りに漂わせる。

「バーベキュー師匠、ありがとう!」

 約束通り、焼き上がったひとつを少年に差し出す。彼は相変わらずの無表情で、黙々ともやしのベーコン巻きを食べた。そして、ひと言の感想も告げずに帰ってしまう。

「美味しくなかったのかしら?」
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