婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 その隙にアンジェリ―ナは厨房を離れ、庭へと出る。

 向かったのは、トーマスの住む監視小屋だった。

 “悪魔の塔”の敷地入り口に建つ朽ちかけの掘っ立て小屋のドアを叩けば、相変わらずおじさんにしかみえない髭面のトーマスが出てきた。

「アンジェリ―ナ様、どうかされましただか?」

「トーマス。ララが洗濯物が多くて困ってるの、手伝ってあげてくれない?」

「ララさんが……? いいですけど、監視小屋を離れても大丈夫なものですかね?」

「私なら、絶対逃げないから。逃がされたところで、すぐに戻るくらいここが好きだから心配しないで」

 アンジェリ―ナの物言いに、トーマスがえびす顔を崩して笑う。

「つくづく、変わったご令嬢ですだ。でも、それもそうですね。今までの方と違ってアンジェリ―ナ様は逃げようとしない気がします。では、少しだけララさんのもとへ行ってきますだ」

「あ、その前に!」

 出て行こうとしたトーマスの背中を、アンジェリ―ナは呼び止める。

「なんですか?」

「ララに、私が言ったから手伝いにきたとは言わないで欲しいの」

 トーマスは意外とつぶらな瞳を瞬かせた。

「なんでですだ?」
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