婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「とにかく、言わないで」

 とびきりの笑顔で誤魔化すと、アンジェリ―ナはトーマスより先に小屋を離れる。そして、洗濯用の物干しざおがある、厨房の裏庭に回った。

 案の定、クッキーを窯で焼いている間に、ララは洗濯物を干しにかかろうとしていた。今まさに、大量の洗濯物が入った籠を、悪戦苦闘しながら裏口のドアから出そうとしている。

 アンジェリ―ナが昨夜、仕立ててから一度も洗っていないジャージの数々を洗い場に置いていたから、ものすごい量だ。

 アンジェリ―ナは物干しざおがよく見える茂みに身を潜ませた。

 しばらくすると、トーマスが裏口から顔を覗かせる。

「手伝いますよ、ララさん」

「トーマスさん?」

 トーマスはララの手にしていた大籠をヒョイと取ると、軽々と外へ運んでいく。

(トーマス、行動がイケメン! これでララもイチコロね)

 ところがララは、いつもの調子で「ありがとうございます」とお礼を言っただけだった。ポッと頬を染めたり、トーマスをチラ見することもない。ただ単に、あら助かった、程度にしか思っていないのだろう。

 アンジェリ―ナは、引き続きふたりの様子を見守り続ける。
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