婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 トーマスは、シーツやジャージなどの大きめの洗濯物を物干しざおにかけ始めた。

「そこ、もう少し皺を伸ばしてくださいね! ああ、そんな干し方したら襟が伸びちゃいますよ!」

 てきぱきとしたララの指示は的確で、行動の男前なトーマスに惚れる兆しはかけらもない。

(うまくはいかないものね……)

 アンジェリ―ナは、心の中でひっそりとため息をついた。恋愛観察バラエティなら、女が男を意識するシーンなのに。少なくとも、みーことマサはそうだった。

 洗濯物を干しながら、トーマスが鼻をひくつかせる。

「そういえば、いい匂いがしますだね」

「クッキーを焼いているんですよ」

「クッキーですか? どうして急に」

「あー……、秘密です」

 誰にも話さないでというアンジェリ―ナとの秘密を守ったのだろう。ララは、含みを持たせた言い方で会話を強制終了した。ララの煮え切らない雰囲気が、気になっているトーマス。


 昼過ぎ。

 またしても監視小屋を訪れたアンジェリ―ナは、ドアをノックする。

「また、何かありましただか?」

 居眠りでもしていたのか、寝ぼけ眼のトーマスがドアの隙間から顔を出した。
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