婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 素人仕事では、恋愛観察バラエティを面白く仕立てるのは難しいと悟った。アンジェリ―ナは、前世で見ていた恋愛観察バラエティの製作者を心から尊敬する。

「何がいけないの? いったい何が?」

 ブツブツと呟きながら逡巡しているうちに、アンジェリ―ナは無意識のうちに塔の周囲をぐるりと回り始める。そして、入り口の真裏に差し掛かったところで、ピタリと足を止めた。宙を見据え、残念極まりない声を出す。

「トーマス……」

 恋愛観察バラエティに、美男美女は必須だ。その点、ララはともかく、トーマスは全くダメだ。五十代に見える二十代に、ララが恋をするはずがないし、観る側も盛り上がらない。

「でも、身近な男はトーマスしかいないもの」

 重い溜息を洩らしたとき、ふと足にひっかかりを覚えた。

「――きゃっ!?」

 視界がぐらつき、アンジェリ―ナは慌てて姿勢を正す。

「え、足?」

 足もとにブーツを履いた長い足があった。だから躓いたのだ。

 見れば、見知らぬ男が塔の壁に寄りかかり、足を延ばしてぐったりと座っている。マントに帯剣している姿から察するに、どこぞの騎士のようだ。

「……誰?」
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