婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 翌朝のことだった。
 
 ――カコン、カコン

 布団の中でまどろんでいたアンジェリ―ナの耳に、明瞭な音が届く。トーマスが薪割りをしているのだろうか。

 ――カコン、カコン

 それにしても、テンポがよく、音の響きがいい。不器用なトーマスは一度で薪を割ることが苦手らしく、“ガッ、ガコッ“という何とも耳障りな音を響かせるのだ。

 気になったアンジェリ―ナは、特注のジャージ姿のまま小窓に寄って外を見下ろす。

 塔の真下で斧を振り上げていたのは、トーマスではなくビクターだった。

(まだいる!)

 退去を言い渡してすぐに、馬の嘶きと蹄の音がしたので、彼は去ったものと思い込んでいた。

 それが、朝の光(曇天ではあるが)に筋肉質な上半身を晒して、爽やかに薪割だなんて。

 アンジェリ―ナは慌てて部屋を飛び出すと、螺旋階段を駆け下りた。そして、斧を振り上げている彼に近づく。

 アンジェリ―ナに気づいたビクターが、みるみる顔を赤らめた。そして、忌々しげに舌打ちをする。

 ツンデレキャラ崩壊している彼に残された、数少ない“ツン”の要素だ。何度もされると、さすがに見飽きそうだが。

「アンジェリ―ナ様、今日も美しいですね」
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