婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 この世界の人から見れば奇天烈にしか見えないであろうジャージ姿のアンジェリ―ナを“美しい”と思うなど、やはり同情してしまうほどに重症だ。

 アンジェリ―ナは目に怒りを込め、語気を強める。

「ビクター様。出て行くように申しましたのに、まだいらっしゃったのですか?」

「昨日ここを出たのですが、今朝また戻ってきました」

 顎先に落ちた汗を手の甲でぬぐいながら、ビクターが答える。

「戻ってきた? なぜです?」

 アンジェリ―ナは眉根を寄せた。

「もしかしたら、ここから逃亡すれば、私の実家やあなたに迷惑をかけるから私が虚言を吐いたとお思いですか?」

 少なくとも、ララはそう思っていた。普通はそう思うだろう。好き好んで“悪魔の塔”に幽閉されたがるものなど自分くらいであろうことなど、アンジェリ―ナにも分かっている。

 だがビクターは、「いいえ」と答えたあと、真っすぐな瞳でアンジェリ―ナを見つめた。

「虚言などとは思っていません。あなたは、この塔に惚れています。想いは、ひとそれぞれだ。自由になることよりも、塔に幽閉されることの方を好む人がいたとしても、おかしくない」
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