三月のバスで待ってる
バス停に着くと、タイミングよくバスが着いたところで、胸が高鳴った。
ーー来てよかった。
目の前でバスが停まって、
「深月ちゃん!どうしたの?」
想太が驚いた様子で降りてきた。
「ちょっと、通りかかって」
通りかかったんじゃなく少し遠まわりしてきたんだけど、それは言わないでおく。
「そっか。今日はーー」
想太が笑って言いかけたその時、バス停の隣に、1台の白い高級車が滑り込んできた。
その瞬間、想太の顔が強張るのがわかった。
「想太さん……?」
呼びかけても、聞こえないみたいに、その車を凝視している。そして、小さくつぶやいた。
ーーえ?いま、なんて言った?
なにか言う暇もなく、車から女の人が降りてきた。サングラスに高そうなコートを羽織った、この前の女の人。
「想太」
と彼女は言った。
「今日こそ話を聞いてもらうわよ」
言いながら、外されたサングラスの下から現れた目にドキリとした。その目は、想太によく似ていた。似ているのに彼のそれとは全然違う、冷たい目。
「俺はあなたに話すことなんてない」
想太ははっきりとそう言った。
「あなたにそのつもりがなくても、聞いてもらわないと困るの。いい加減に子どもみたいなことばかり言うのはやめなさい」
有無を言わさぬ強い口調。苦しそうな想太の表情を、私は黙って見ていられなかった。