三月のバスで待ってる

「やば、そろそろ出発の時間だ」

彼ら腕時計を見て、慌てて言った。

「さあ、深月ちゃんも乗って」

「は、はい」

いきなり名前で呼ばれて、ドキリと心臓が跳ねた。

家族以外の誰かに名前を呼ばれるのは、随分久しぶりのことだった。

バスに乗って、後ろのほうの窓際の席に座る。ゆっくりと動きだしたバスに揺られながら、ガラス越しの景色を眺める。公園の横を通り、朝の光を浴びて銀色にきらめく川を渡る。街中を通り過ぎたら、学校に着く。

不思議だった。ずっと、朝の光も霞んで見えるくらい沈んでいたのに。

学校に着くまでの間、座っているのにどこか浮いているような、ふわふわした気持ちが続いていた。

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