三月のバスで待ってる



バレンタイン前日の夜。家族が寝静まってから、私は買ってきたブラウニーの材料をキッチンに広げた。スマホでレシピを検索して眺めてみるけれど、
「えっと、チョコを刻んで湯煎にかけ……湯煎ってどうやるんだっけ」
最初の段階でさっそくつまづいていた。
昔、お母さんに教えてもらったやり方を思い出そうとするけれど、遊んでばかりの私と深香に呆れ顔をしながら、結局トッピング意外のほとんどをお母さんがやっていたので、情けないほど覚えていなかった。
レシピを閉じて、湯煎のやり方を調べて納得し、またレシピに戻る……などとやっていたら、いつまで経っても終わらない。
先の長さにため息を吐いていると、廊下から足音が聞こえてきて、ヒヤリとした。お母さんだろうか。まだ起きてるの、と苦い顔をされた時の言い訳を考えていると、かちゃりと控えめにドアが開いた。
入ってきた予想外の人物に、私は目を見開いた。
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