三月のバスで待ってる

「うまくいってるんだ、学校」
私はホッとして言った。
前にふらふらと街を歩いているのを見かけてから、新しい学校でうまくいっているのか、心配だった。私は陰口を言われても仕方ないけれど、もう深香にはそんな苦しい思いをしてほしくなかった。
「うん、まあ、いろいろあってね」
と深香は照れながら言う。
「それで、そのお礼でこれ、あげたい人がいるんだ」
「え、あげたい人って……」
「内緒ー」
はぐらかされて府に落ちなかったけれど、妹の恋愛事情なんて聞いたら落ち込みそうだから、追求はしないことにする。
ねえ、と深香がぼんやりと明かりが灯る電子レンジを見つめながらつぶやいた。
「覚えてる?小学校の時、お母さんと一緒にチョコ作ったの」
私は、うん、と頷いた。
あの時は私も深香も小学生だった。学校に行くのも遊ぶのも、なにをするのも一緒だった。
「あたしたち遊んでばっかりで、お母さん怒ってたよね。でも結局お母さんがやってくれて、うちらはトッピングだけして残ったの食べて。形は悪かったけど、すごくおいしかったよね」
「うん、おいしかったね」
それから私たちは、電子レンジの音が鳴るまで、懐かしい思い出話をした。バレンタインの話からはじまって、クリスマスや春休み、夏休みにあった、楽しい出来事ばかりを話した。
話しながら、ふと、目の奥がじんと熱くなった。楽しかった記憶は、私だけのものじゃなかった。なくしたと思っていたものは、まだ残っていた。辛いこともたくさんあったけれど、またひとつ、乗り越えることができたんだと思った。
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