三月のバスで待ってる



翌朝。
いつもより早起きをして、お父さんにきれいにラッピングをしたブラウニーを渡した。
「これ、2人で作ったの」
そう言うと、お父さんはびっくりしすぎて、トーストをぽろりとテーブルに落とした。慌てて拾って皿に乗せ、まじまじと私たちの顔を見つめた。
「もらっていいのか?」
「うん。味は保証済みだから」
私より前にも和解を済ませていた深香は笑ってそんなことを言うけれど、私はやっぱり急に態度を変えるなんてできなかった。
でも、食べかけのトーストより先に、待ちきれないようにブラウニーを口にして、うん、うまい、と何度も頷くお父さんを見ていたら、自然と頬が緩んでいた。
「これからはもっと早く帰ってきてよね。いるかいないかわかんないんだから」
深香がそう言うと、お父さんは気まずそうにしていたけれど、
「そうだな、そうするよ」
と照れくさそうに頷いた。そばで見ていたお母さんの目は、少し潤んでいた。
いまはうまく言葉にできないけれど、これからたくさん話していけたらいいと思った。いままで離れていた分、話すことなら、私たちにはたくさんあるはずだから。

『壊れてないと思うよ』

と雨のバスの中で、想太は言った。

『いまは難しくても、いつか向き合える日がくるよ。君が家族の幸せを願うなら、きっと』

そうだね、と私は思った。
時間がかかってしまったけれど。
ーーやっと、向き合えた。
でも、私だけじゃない。
きっと、みんなが幸せを願ったから、叶ったことなんだ。
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