三月のバスで待ってる
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チョコを渡したり、渡されたり、あからさまに待っている感じを出している人がいたり、教室の中はいつもとは少し違う、よそよそしさを含んだ違う賑やかさに包まれていた。
「うわぁー、どうしようどうしよう、もうすぐ1日学校終わっちゃううう……」
朝からずっと落ち着かない様子の杏奈に、上原さんが呆れた声で言う。
「すぐそこにいるんだからサクッと渡しちゃえばいいのに」
「そ、そんな簡単に言わないでよー」
「だって見てよあの緊張感のなさ。あの人、バレンタインなんて頭の片隅にもないんじゃない?うだうだしてたらほんとに何事もなく終わっちゃうよ」
上原さんに目線で指された目を向けると、今日もいつも通り爆睡中。たしかに彼にとっては、バレンタインなんてカレンダーの一部くらいの存在感しかなさそうだ。
「きみ、けっこう毒舌だよね……」
「友達として忠告してあげてるの」
「部活の時に、必ず……」
杏奈は涙目で言って、私があげたブラウニーをかじった。
「え、めっちゃおいしいこれ」
「ほんと?よかった」
味はすでに保証済みだけれど、そう言ってもらえると自信が持てる。
まあ、半分以上妹が作ったんだけど……というのは伏せておいた。