三月のバスで待ってる

バスの中、ドアが開くたび、想太のマイク越しの声が聞こえるたびに、まだとわかっていても、思わず肩が震える。

ーーどうしようどうしよう。

朝からずっとオロオロしていた杏奈の気持ちがよくわかる。実際いまにも立ち上がって叫び出しそうなくらい、私の心臓は暴れまくっていた。

好きな人になにかを渡す。そんなこと初めてだった。いままでで一度も経験したことがなかった。

ただ渡すだけ。それだけで、こんなにも緊張するものなんだ。

やがていつものバス停に停まった。できるだけ先延ばしにしたかった時間がやってくる。私は地面に足がついていないような落ち着かなさで前に向かった。

「深月ちゃん、今日もありがとう」

想太が私に目を向けて、いつもみたいに笑いかける。

それだけでふっと心が和む。

「はい、あの……」

いまだ、と思うのに、うまく言い出せない。

「ん?」

首を傾げる想太に、私は、思いきって包みを差し出した。

「これ、いつものお礼です!」

「えっ」 

想太が目を丸くして、それから顔をくしゃっと崩して笑った。

「うわ、ありがと、嬉しい」

ーー渡せた。渡しちゃった……。


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