三月のバスで待ってる
11.『約束の場所』

3月になって、少しずつ春の気配が見え隠れしはじめた。

「もう2年も終わりかぁー」

私の席の隣、つまり悠人の席に座って、杏奈がぼやく。

「3年になってもみんな同じクラスがいいよねぇ」

と、朝練から帰ってきた悠人が、杏奈の頭を後ろからコツンと叩いた。

「おまえはそればっかだな。いい加減聞き飽きたっつの」

杏奈は頭を押さえながら口を尖らせる。

「だって、このクラス大好きだもん。鈴村はあたしと離れ離れになってもいいわけ?」

「大げさだな。離れ離れって、教室がちょっと離れるくらいだろ」

面倒くさそうな口調だけど、前より柔らかい雰囲気を感じて私は微笑んだ。

バレンタインの日、杏奈が部活の後に告白して、2人は付き合うことになった。

関係が変わっても悠人は相変わらず部活一筋で、付き合ってる実感がない、と文句を言っているけれど、悠人からさりげなくスキンシップをとったり少しずつ変えようとしているのがわかる。
そんな初々しい2人を眺めながら、微笑ましく思いつつ、私はどこか寂しさを感じる。
理由は、ひとつしかなかった。
考えはじめるとどうしようもなく湧き上がる不安を、押し除けるように1日をやり過ごす。

『本当にありがとう』

そう言って見せてくれた、ふわりと花が開くような、大好きな笑顔。
あの笑顔を最後に見た日から、1ヶ月が経っていた。
彼に会わない毎日は、すごく長い時間に思えた。
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