三月のバスで待ってる



夕飯はカレーだった。
お父さんが早く帰ってくるようになって、また昔のような家族そろって食事をすることが増えた。
「うわ、お父さんカレーにはちみつかけるの?」
カレーにどばっとはちみつをまわしかけるお父さんに、深香が眉をひそめる。
「なんだ、だめなのか」
「いやだめじゃないけどさあ……それにしたってかけすぎ。それもうカレーじゃないよ」
「カレーは何したってカレーだろう」
お父さんが負けじと言い張る。
「お父さんは昔から甘党だったわよ、ねえ?」
まるで隔たりなんて存在しなかったかのように、笑って言うお母さん。
バレンタインの朝以来、静かだった家の中に灯りがともるように、会話が増えた。まだ少しぎこちなさはあるけれど、最近では自然に笑いが生まれることも増えた。
一度壊れてしまっても、永遠に元に戻らないなんてことはない。壊れてしまっても、またやり直せばいい。
それに、『壊れてない』そう言って励ましてくれたのは、想太だった。
そのことを一番に伝えたいのに、彼は突然姿を消してしまった。
なんで、と思った。なんで突然いなくなっちゃったの。
諦めるなんて、できるはずがなかった。
想太の存在は、私の中で、いつの間にかこんなにも大きくなっていたんだ。
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