三月のバスで待ってる
◯
時間の感覚がなかった。いま自分がどこにいるのか、何をしているのかも曖昧で、先の見えない霧の中を歩いているみたいだった。途方もなくて泣きたくなる。
どうしてこんなに悪いことばかり起こるのだろう。
でも、私のこれまでは、悪いことばかりだった。
それが、想太に少しずつ変わっていったのだ。
『顔をあげて』
『いつも下ばかり向いてたら、見える景色も見えなくなっちゃうでしょ』
見える景色ってなんだろう。そうまでして見なきゃいけない景色なんてあるんだろうか。そんなことを思いながら、でもその言葉をいつもどこかで意識していた。そうしたらいままで気づかなかった小さな景色が見えるようになった。楽しいこと、嬉しいことが毎日少しずつ増えていって、気づけば、ひとりぼっちだった私のまわりにはたくさん人がいた。
変えてくれたのは、想太だった。
想太がいたから、私は変わる勇気が持てた。
なのに、会えなくなってしまった。
会いたくても会う方法がわからない。どうすればいいかわからない。
気づけばあのバス停にいた。
夢でも観ているみたいだった。
夢だったらいいのにーー
けれどこの体の重さが、これは紛れもなく現実だと伝えている。
私は絶望に打たれながら、立ち上がることすらできずにいた。
「ーー深月ちゃん」
名前を呼ばれてハッと顔をあげた。
そこにいたのは、困ったように微笑む関さんだった。
「ちょっと、話をしないかい?」
と関さんは言った。