三月のバスで待ってる
「私、何もできなかった……たくさん、ほんとうにたくさんのものをもらったのに、何も返せなかった……」
悩んでいたのに、何もできなかった。
事情を知ったところで私にできることなんてなかったけれど、それでもーー
「そんなことない。想太はいつも君のことを話していたよ。それはもう嬉しそうに」
「え……?」
「深月ちゃんがこんなことを言ってた、今日は機嫌がよさそうだったって、会うたび君の話ばかりするんだ」
「そんな……なんで……」
私の話なんて、人に話すような大した話じゃないのに。
でも、嬉しそうに話す想太の表情が想像できてしまって、涙がこぼれて手の甲に落ちた。
でも、そうか、と気になっていたことが府に落ちる。
「だから、関さんは私の名前を知ってたんですね」
「これ言うと想太に怒られるかもしれないけどね」
そう言うと、関さんは笑って言った。
それから、ふと思い出したように、鞄を手に取って探りだした。
「さっき、事故の現場に行ってきたんだよ」
「え……?」
事故現場ーー
唐突に放たれた言葉に殴られるように、私は胸を痛みを感じた。
想像したくないのに、してしまう。
信号待ちをしている想太のところに、前から猛スピードで突っ込んでくる車。
どうしてそんな話をするんだろうと思ったその時。
「そこに、これが落ちてたんだ」
関さんは鞄から何かを取り出して、私の前で手を開いて見せた。