三月のバスで待ってる
記憶を手繰り寄せてみても、その時の彼といまの想太の姿は全然一致しない。背が高くて細いという印象だけで、顔はぼんやりとしか覚えていなかった。
まさかあの人が、想太だったなんて。
まさかあの時、想太が死のうとしていたなんて、考えもしなかった。
本当に死ぬつもりだったかどうかは、想太にしかわからない。
私もそうだったから。嫌なことばかりで、生きている意味がわからない毎日の中、絶望に飲み込まれて、自分がどこに立っているのかわからなかった。生きているのか死んでいるのかすら曖昧で、幽霊のようにふらふら街を歩いていた。そして気づけば、線路の中にいた。
あの時、近くを通りかかった駅員さんがとっさに助けてくれなかったら、私はここにいないかもしれない。
想太がその時何を思ったのかは、想太にしかわからない。
だけど、私は、偶然にも彼を助けることができた。
とっさに手を引っ張って、死に向かいかけていた彼を、こっちの世界に引き戻すことができた。
そんなすごいことをしたつもりはなかったけれど。
ずっと前、知らず知らずのうちに、私は想太を助けていたんだ。