三月のバスで待ってる
バスに乗って定位置に座る。後ろから2番目の、窓際の席。それほど混むことがないこのバスで、この席が空いていた。
窓の外を流れる景色。街や人、建物や川の流れ。同じように見えてもよく見ると少しずつ違っていた。朝学校に行く時、学校から帰る時、毎日この景色を眺めながら、いろんなことを考えた。寝過ごしてしまって最初の場所に戻ったこともあった。
バスは毎日たくさんの人を乗せて走る。おなじ道をぐるぐる回る。そのことに、変かもしれないけれど、私は不思議な安心感を覚えたんだ。
マイク越しのアナウンスが聞こえて、いつものバス停で降りる。始発点と終着点。駅でも何でもないこのバス停から出発して、この場所に戻ってくる。
「いつもありがとう、深月ちゃん」
関さんがにこやかな笑顔で声をかけてくれる。
「それから、卒業おめでとう」
温かい言葉に、心がじんと温まる。
「こちらこそ、ありがとうございました。いろいろお世話になりました」
私は学校の先生に言うみたいに改まって言った。
いや、学校の先生よりもずっと、お世話になったかもしれない。
去って行くバスを見送りながら、私はひとりぽつんとバス停に立った。
このまま帰ってしまうのが名残惜しかった。いつでも来れるのに、4月からはまたこのバスに乗って新しい学校に通うのに、今日で確実に何かが終わってしまったという実感。
『明日の朝、いつものバス停で待ってる』
あれから1年。あの言葉を忘れたことは1日もなかった。毎日、毎朝、彼を待っていた。毎朝、そこに彼がいないことを知って肩を落とした。
それでも、私は。