三月のバスで待ってる
終着点のバス停で降りるのは、今日もまた私だけだった。まるで私だけのためにあるバス停みたいだと、贅沢なことを思う。
「ありがとう」
切符を通してバスを降りようとした時、想太が言った。
「あ、はい」
思わずそう答えた。
こちらこそ、ありがとうございます、と言いかけて、口をつぐむ。
忘れ物を渡してくれたお礼をまだ言えていなかった。でも、そんなことは彼にとってきっと日常のほんの些細な出来事のはずで、もう覚えていないかもしれないし……。
結局それ以上何も言えなくて、逃げるようにバスを降りた。と、なぜか想太まで、エンジンを切って降りてきた。
「あ、あの……?」
もしかしてまた忘れ物だろうかと不安になる。
「あ、今日は忘れ物じゃないよ。次の出発まで少し時間があるから、ちょっと休憩」
想太はにっこり笑って言った。
「初日の学校はどうだった?」
「どうって……とくに、なにもなかったです」
戸惑いながら、ぶっきらぼうに答えてしまった。
本当に、何もなかった。
転校生は質問責めにあうものだと思っていたけれど、みんな遠くから様子を窺うみたいに、チラチラと見ていただけだった。
誰も私なんかに興味はないのかもしれない。
でも、そのほうが楽だった。前の学校では、つねに視線に晒されていたから。