三月のバスで待ってる

情けなさにまた落ち込む。

だけどーー、

「そっか、なにもなかったか。よかった」

と想太はなぜか嬉しそうに言った。

「え?よかった……?」

「だってなにもなったってことは、悪いことがなにもなかったってことでしょ」

「はあ……」

どれだけプラス思考なんだ、この人。

ただのなぐさめの言葉じゃなく、本気で思っていそうだからすごい。

彼はまっすぐに私を見据えて続けた。

「きっとできるよ。だって、君は強いから」

「え……?」

意味がわからなくて、私は彼をまじまじと見つめた。

強い?私が?

それに、会ったばかりでどうしてそんなわかったようなことを言えるんだろう。

わけがわからないけれど、その微笑みを見ていると、なんだか細かいことはどうでもいいような気になってくる。

やっぱり、変わった人だ。でも、今日1日で、彼に向ける目がずいぶん変わったことに気づく。

彼は、人のことをよく見ている。だから小さなことにも気づく。この人がいるから、人はこのバスに乗りたいと思う。乗り降りが大変でも、顔を上げられなくても、ちゃんと見ていてくれる人がいるから。

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