三月のバスで待ってる
2.『白い花の記憶』
はらはらと、頭のうえを白い花が舞っていた。
あれは、3月。家族でドライブに行った帰り道。
道に迷って、知らない場所に出た。
月明かりの下、丘のうえに白い花をドレスのようにいっぱいにまとった大きな木が夜空を切り開くように立っていた。かすかな風が吹き、小さな花びらを散らした。
桜に似ているけれど、桜が咲くには早い時期だし、花びらは白く、形も少し違うようだった。
『すごーい!』
『きれい!』
はしゃいでいた私たちも、その幻想的な光景に見惚れて次第に言葉もなくなった。
しばらくして、そろそろ帰るか、とお父さんが思い出したように言って、そうね、とお母さんが言った。
私と深香はまだ名残惜しかったけれど、背中を押されて車に乗った。
車の中で、私はそっと手のひらをひらいた。
1枚の小さな白い花びらは握りしめたら消えてしまいそうに儚くて、私は手のひらで包むようにして大事に持っていた。