三月のバスで待ってる
教室に入ると、クラスメイトが杏奈に挨拶をし、ついでのように私にも声をかけられる。私は小さない声で挨拶を返しながら、席についた。
隣の席の悠人は、足を投げ出して机に突っ伏して寝ている。
この人はいつ見ても寝てるな……。
「ね、深月、部活とか入る予定ある?」
席に荷物をおいた杏奈が、さっそく声をかけてくる。
「え?えっと、部活はやらないと思う」
「ええーっ、そうなの?あたし男子バスケ部のマネージャーやってるんだけど、人手足りなくてさ、よかったらどうかなーなんて」
「マネージャーなんて私には無理だよ……」
バスケのルールもわからないし、自分の世話すらままならないのに人の世話なんてもっと無理だ。
それ以前に、学校が終わったらすぐに家に帰ることになっているから部活なんて許してもらえるはずがない。
「そっかー。まあ、入ってもあと1年もないもんねえ。しょうがないか」
と残念そうにぼやく杏奈。
そういう意味ではないんだけど……と私は苦笑した。
「うるさ……」
いつの間にか体を起こしていた悠人が、鋭い目をさらに細くしてつぶやいた。
「え、普通に話してただけなんだけど」
「お前の普通は普通じゃないんだよ」
ていうか、と悠人がチラリと私に目を向ける。
「お前ら、仲良くなったの?」
「そ、さっきね」
杏奈は言って、ね?と私に同意を求めてくる。
「う、うん」
へえ、と悠人は少し意外そうな顔をして、
「櫻井さん、嫌だったらハッキリ言ったほうがいいよ。こいつ鈍いし言わないと気づかないから」
「ひど!なにその言い方」
「ほんとのことだろ」
「う、そうだけど……嫌だったら言っていいからね?」
「ううん、そんなことないよ」
私はまた苦笑した。
そんな泣きそうな目で言われたら、誰も嫌だなんて言えないと思う。