三月のバスで待ってる

「あのさ、深月」

と、杏奈がついでのようにさりげなく言う。

「やっぱり、部活やってみない?マネージャーじゃなくても、なにか自分に合うのがあるかもしれないし」

「………」

どうしてそんなに部活にこだわるのだろう、と不思議に思った。私が部活をやってもやらなくても、彼女には関係ないはずなのに。

黙っていると、杏奈が頭に手を当てて笑った。

「あー……深月が部活やるなら時間合わせて一緒に帰れるかなって思ったんだけど、やらないって言ってたもんね。しつこく言ってごめんね」

「え……」

誰かと一緒に帰るなんて想像もしていなかった私は、ぶんぶんと首を振った。

できるなら、私も一緒にやりたい。人手がほしいなら、助けたい。

でもーー

「……ごめんね。うちの親厳しくて、部活はダメって言われてて」

うつむいて謝ると、

「そうなんだ。じゃあしょうがないね」

と杏奈は気にしていないように笑ってくれた。

「そこの2人、そろそろ教室戻れよー」

加納先生に呼ばれて、私たちは同時に立ち上がって、顔を見合わせて笑った。



ずっとひとりでいるのが当たり前だった。環境が変わったところで何も変わらないと最初から諦めていた。

でもーー友達ができた。

私なんかに、自分の素直な気持ちを打ち明けてくれる友達が。

それはきっと、嘘じゃないと思うから。

それだけで、私の心は驚くほど弾んでいた。



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