三月のバスで待ってる

空が白ばみ夕焼けに染まる前の街中をバスが通り抜けていく。大通りにショッピングビルや会社のビルが並ぶ。学生やサラリーマンやOL、いろんな年代の人たちが行き交う。

バスが停車した時、ふと、人混みの中に目が留まった。

ーーえ?

下をむいて歩く、セーラー服服姿の女の子。深香だった。

もう学校は終わったんだろうか。それより、どうしてここに……?

人混みに埋もれて、すぐにその姿は見えなくなった。

何人かの人が乗り込んできて、扉が閉まった。バス停が動き出し、その人の流れも見えなくなった。

それでも、とぼとぼとひとりで街を歩く妹の姿が、頭から離れなかった。

明るくて昔から友達が多かった深香。私よりずっと人付き合いが上手だった。でも、ある時期から、深香は変わった。ひとりでいることが多くなり、笑顔を見ることもなくなった。


ーー私のせいだ。

これまでに何度思ったかわからないことが、呪いのように頭に浮かぶ。

私のせいで、みんな変わってしまった。仲がよかった家族はバラバラになって、会話も笑顔もなく、同じ家に住んでいるのにまるで別々の場所で生活しているみたい。

全部、私の、私が起こしたことのせいでーー

「間もなく停車します。座ってお待ちください」

声が聞こえて、しばらくしてバスが停まった。

ーーやっぱりダメだ。

ぐったりと重たい気分を抱えて席を立ちながら、そう思った。

嬉しいことがあった。話したいことがあった。
でも、そんなのんきな考えは一瞬にして吹き飛んでしまった。

自分のしたことを思い出せ、そう言われているみたいだった。

「深月ちゃん」

呼ばれて、降りようとした足を止めた。

「どうしたの?何かあった?」

「……何もありません」

私は顔を伏せて小さく答えた。

想太は疑わしそうに顔を傾ける。

「もし何かあったら、よかったらーー」

「何もないって言ってるじゃないですか」

優しい言葉を聞きたくなくて、つい冷たい口調を放ってしまった。

心配して言ってくれているのに、どうしてこんな嫌な言い方をしてしまうのだろう。

私は自己嫌悪からにげるように、駆け足でバスを降りた。

ーーだから、嫌なんだ。

誰かと親しくなれば、なにかを期待してしまう。
誰かを傷つけたり、傷つけられたりするのは、もうたくさんだった。

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