三月のバスで待ってる
3.『夕暮れの座席』
「注目ー。昨日のテスト返すぞー」
加納先生がいつものやる気のない口調で言って、生徒の名前を順番に呼んでいく。
返ってきた用紙を見て、私は青ざめた。化学は理系科目の中でもとくに苦手なのだけれど、これはひどい。
「20点て」
ぼそりとつぶやく声に、私は落とした肩を震わせた。見ると、悠人が笑いをこらえてこちらを見ている。
「櫻井さん、勉強できそうなのに意外だなー」
「あ……化学は苦手で」
言い訳しながら机に置かれた悠人のテストを見て、何も言えなくなった。部活ばかりで勉強なんてしていなさそうなのに、じつは成績優秀なんて。
チャイムが鳴るなり杏奈が駆け寄ってきて、肩に手を置く。
「深月ーどうだった?」
私が消え入りそうな小声で答えると、「ええっ」と驚いた声。
「深月……」
同情の眼差しで見られていたたまれなくなる。
「あ、20点以下は放課再試だからなー」
「き、気を落とさずに頑張って!」
なぐさめられて、さらに肩を落とした。