三月のバスで待ってる
◯
「はい、終了」
静かな教室に先生の掛け声が響いて、私はふう、と息を吐く。
休憩中に悠人と杏奈が2人がかりで教えてくれたおかげで、なんとか回答欄の半分以上は埋められた。
終わった生徒から順に教室を出て行く。
私も筆記用具を片付けて教室を出ようとしたところで、
「あ、櫻井、ちょっと」
と加納先生に呼び止められた。
まだ何かあるのだろうかと思いながら振り向くと、先生は言いづらそうにポリポリと頭を掻きながら言う。
「あー、その、学校生活はどうだ?何か悩みとかはないか?」
その言葉だけで、先生の言いたいことがわかった。
担任だから仕方ないのかもしれないけれど、そんな不自然な態度をとるくらいならそっとしておいてほしい。
「大丈夫です。何も問題ないです」
そう答えると、先生はほかの大人たちと同じように、わかりやすくホッとしたような表情になった。
「そ、そうか。ならよかった。引っ越しできたばかりで慣れるのも大変だろうけど、少しずつな。もし悩みがあったらなんでも言うんだぞ、いいな?」
心配しているのか、面倒を起こすなよと念をおしているのかわからない口調で言う先生に、私は頭を下げて、教室を後にした。
『悩みがあるなら言え』
これまでに何度も言われた言葉。でも、そんな風に軽々しく言う人は、何もわかろうとなんてしていない。
軽々しく言えないから、あんなことになったのに……。
でも、いまは違う。友達もできたし、前とは違う。少しずつだけれど、前に進んでいる。
ーーだから、大丈夫。
誰に言うでもなく、自分に言い聞かせた。