三月のバスで待ってる
私は水の中を歩くように重い足を引きずりながら、部屋を出た。
リビングのドアを開けるなり、お母さんが心配そうな顔を向ける。
「おはよう、深月。もう体調はいいの?」
「うん。心配かけてごめんね」
安心させるために明るく答えると、お母さんは「そう」とホッとしたような笑みを浮かべる。
玄関にはまだ深香の靴があった。まだ部屋で寝ているのだろう。靴を履いていると、お母さんがまた心配そうな顔を浮かべる。
「無理しちゃダメよ。困ったことがあったらちゃんとに言うのよ。お母さんが学校に言ってあげるから。いいわね?」
ーーそんなことしなくていいよ。
そう思いつつ、
「うん。大丈夫だから」
と私は苦笑いを返す。
私は昨日の出来事を思い出して、ギュッと胸を掴んだ。
「……いってきます」
ぐずぐずしていたはずなのに家を出たのはいつも通りの時間で、私はまたため息を吐きながらバス停に向かった。