三月のバスで待ってる
◯
バス停に着くと、想太が運転席から顔を出して、
「おはよう、深月ちゃん」
と雨をも吹き飛ばすような爽やかさで言った。
私は返事をする元気もなく、頭を小さく下げていつもの窓際の席に座る。
『あの櫻井さんがねー』
『死んじゃったほうがましかも』
昨日耳にした噂話が、こびりついたように頭から離れない。
そればかりかバス停でドアが開くたび、学校が近づくたび、その声はどんどん大きくなって容赦なく頭を叩く。
「ギャハハハ、マジかそれ」
「アイツうけるよなー」
耳障りな笑い声は、いつも途中から乗ってくる男子グループのものだった。うちの学校の生徒だ。
『間もなく停車します。お気をつけてご降車ください』
想太の声にはっとする。男子グループがぞろぞろとバスを降りていく。
私も行かなきゃ。そう思うのに、足が全然思うように動いてくれない。
どうしよう。このままじゃ……。
しばらくしてプシュッという音とともにドアが閉まった。
あ……。
私は呆然と閉じたドアを見つめた。
「発車します。次はーー」
聞こえてきたアナウンスに途方に暮れる。
ーーなにやってるんだろう、私。
せっかく頑張ってここまできたのに、降りれなかった。これじゃあ遅刻だ。でも、帰りたくても帰れない。
情けなさに泣きそうになりながら、膝に顔を埋めた。