三月のバスで待ってる



バス停に着くと、想太が運転席から顔を出して、

「おはよう、深月ちゃん」

と雨をも吹き飛ばすような爽やかさで言った。

私は返事をする元気もなく、頭を小さく下げていつもの窓際の席に座る。

『あの櫻井さんがねー』

『死んじゃったほうがましかも』

昨日耳にした噂話が、こびりついたように頭から離れない。

そればかりかバス停でドアが開くたび、学校が近づくたび、その声はどんどん大きくなって容赦なく頭を叩く。

「ギャハハハ、マジかそれ」

「アイツうけるよなー」

耳障りな笑い声は、いつも途中から乗ってくる男子グループのものだった。うちの学校の生徒だ。

『間もなく停車します。お気をつけてご降車ください』

想太の声にはっとする。男子グループがぞろぞろとバスを降りていく。

私も行かなきゃ。そう思うのに、足が全然思うように動いてくれない。

どうしよう。このままじゃ……。


しばらくしてプシュッという音とともにドアが閉まった。

あ……。

私は呆然と閉じたドアを見つめた。

「発車します。次はーー」

聞こえてきたアナウンスに途方に暮れる。

ーーなにやってるんだろう、私。

せっかく頑張ってここまできたのに、降りれなかった。これじゃあ遅刻だ。でも、帰りたくても帰れない。

情けなさに泣きそうになりながら、膝に顔を埋めた。

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