三月のバスで待ってる



バス停のベンチはバスを待つものであって、お昼ご飯を食べるところではないはず。

……なんだけれど、私はいま、コンビニのサンドイッチを食べている。そして、隣にはバスの運転手さん。

……いいんだろうか。学校をサボって、こんなところでのんきにランチしてていいんだろうか。 
誰かに見られて苦情とかこないかな?

小心者の私はつい心配になって周りをキョロキョロと見回してしまう。坂道にも反対側の道沿いの民家にも人の姿はない。静かだ。いつか見た薄い茶色の猫が、空気を震わすように視界を横切っていく。

「大丈夫。猫はいても、人は滅多に通らないから」

私の心情を察したように、想太がくすりと笑って言った。

「あ、すみません、つい……」

「バス待ちの人がいたらダメだけどね、まあたいていいないし」

「それいいんですか。バス停として」

「俺は深月ちゃんと話せて嬉しいよ?」

サンドイッチを片手に、さらりと想太は言う。

どうしてこの人は、そんな恥ずかしいことを日常会話と変わらない調子で言えるんだろう。

こういう人なんだとだんだんわかってきたものの、恥ずかしくなるのはいつも私ばかりで、なんだかからかわれているような気もする。

目に映る景色を眺めた。雨あがりのバス停は光を含んできらきらと輝いていて、すごくきれい。

こんな景色をひとり、いやふたり占めできるなんて、なんだかすごく贅沢な気分になる。

この景色を目に焼きつけておきたいと思った。

その時ふいに、中村先生が授業で言ったことを思い出した。
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